なぜセラピストという仕事を選んだのか(2)

【第2回】 セラピストとしての第一歩

 30歳を過ぎて、私はセラピストという新しい道に挑戦しました。久しぶりの面接、採用後の勤務。それでも決断するまでには半年かかり、「本当にやれるだろうか」と何度も自問自答しました。勤務先は自宅から1時間以上かかるホテル内のサロン。深夜勤務やお盆、年末年始も休めない環境で、生活は一変しました。長時間の立ち仕事で体力的にも大変でしたが、若い頃とは違い、「自分で選んだ道だからこそ頑張りたい」という気持ちが支えになりました。

 経験も知識もゼロからのスタートでした。覚えることは山ほどありました。
 そのような中、研修が終わり、初めてお客様を担当したときのことは、今でも忘れられません。緊張で手が震えそうになりながら挑んだのはフェイシャルマッサージでした。正直に言うと、そのときの細かい手順はあまり覚えていません。ただ「時間どおり、手順どおりにやらなければ」と無我夢中で手を動かしていました。施術後に、「とてもリラックスできました。ありがとう。」と言っていただけたとき、胸の奥からじんわりと温かいものが広がりました。あの瞬間こそ、私がセラピストとして歩み始めた実感を得た出来事だったのだと思います。

 不思議なもので、経験を重ねるうちに自然と体が覚えてくれるようになりました。最初は頭で考えながら必死に動かしていた手も、いつのまにかお客様の表情や呼吸のリズムに合わせられるようになり、心に余裕が生まれました。今では、どんなお客様と巡り合えるのだろうと、毎日、心待ちにしています(続きます)。 

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